2018年11月25日日曜日

雲水日記13

7月3日
入門101日目。同夏が逃げ、役位がクビになった。

朝起きたら、同夏がいなくなっていた。
夜逃げしてしまったらしく、雲水全員で探し回ったけど、見つからなかった。
自坊にいると安否の確認ができたので、ひと安心しただけど、今回は役位の暴力が原因の一つ(※1)ということで、本人がクビになった。
客観的に見ても明らかに指導ではなく、ただのいじめであるから、仕方がない。
俺も張り倒されたり、階段の上から背中を押されたり、耳元で大声で叫ばれたり、作務衣からシャツが見えただけで土下座を強要させられたり、通路とかですれ違う度に”何だてめぇ殺すぞ”って威圧されたり、やりたい放題にやられてきた。年下に好き放題やられて情けなくなる。

俺だって、逃げられるもんなら逃げたいわ。辛いというよりアホらしくて。
でも最低1年道場にいないと坊さんになれないし、家族や檀家さんに迷惑かけるから今は耐えるしかないのだが。。。

気持ちを切り替えて、修行の目的は何なのか、この道場を選んだのはなぜか、もう一度初心に立ち返り、環境の変化に関係なく、やるべきことをやるだけだ。
今週は山門施餓鬼、そして来週から棚経が始まる!

※1
この道場では、即クビになる行為が3つある。1暴力、2変装(私服に着替えること)、3窃盗。見つかったら強制的に自坊に返されるルールになっている。

【雲水用語】
同夏(どうげ):同じ年に入門した同期のこと。
役位(やくい):道場の幹部のこと。長年修行している上位3人が役位に就く。
山門施餓鬼(さんもんせがき):お寺で先祖の供養を行う夏の儀式。
棚経(たなぎょう):お盆の時期に行うお経回り。地域によってお盆の時期が違う。

2018年11月20日火曜日

雲水日記12

6月21日
入門89日目。3度目の接心終了。

 長い長い3度目の接心がようやく終わった。
すっかり恒例になった魔のデカ盛り茶礼に加え、今回は、初の三應の接心当番(※1)、葬儀2座、大法要2座(※2)、更に水施餓鬼も始まり、ものすごくハードだった。
ただでさえ接心中は、4時起床、23時就寝なのに、23時から葬儀と法要での侍香の練習が入ったから、1時間半睡眠が続いた。。。
講座中に寝るとクビになるし、さすがに葬儀や法要で寝るわけにはいかないため、先輩から貰ったモカという眠気止め薬を飲んで耐えた。
効果があったのかよく分からないけど、なんとか睡魔に勝った。

 そして、初めてのことが続き、数え切れないほどのミスをした。
葬儀や法要は一般の方にはわからない程度のミスだと思うが、一番のミスは風呂を入れ忘れたことだ。めちゃくちゃ怒鳴られ、持鉢を投げつけられた。
致命的なミスをすると、着襪低頭といって、雲水衣に着替えて足袋を履いて(※3)、謝罪をすることになっている。
接心中は分刻みで予定が全て決まっているから、それを狂わせてしまうことは絶対にやってはいけないNG行為とのこと。
ちなみに、食べられないくらい不味い飯をつくっても着襪低頭をしなければいけないらしい。
何をやらかしても、着襪低頭をすれば許してもらえるんだから、と気持ちを切り替えよう。。。
Don't worry be happyだ。

 とにかく踏んだり蹴ったりの7日間だったけど、ひとまずお疲れ様でした。

※1
お経のテストに合格すると、接心当番というものが当たる。
接心中は、檀家さんであっても外部との接触は断絶され、食事と東司以外は座禅と一日4回の参禅を行う。接心当番は、集中して修行ができるようにサポートすることが役割。
主な三應の接心当番は、老師の食事づくり、参禅準備、開浴準備など。
他には典座の接心当番がある。典座は雲水への食事や茶礼をつくることが役割。

※2
道場内で使う用語。
小法要:雲水2~3名で行う法要。
中法要:雲水4~6名で行う法要。
大法要:雲水の人数は関係なく、老師が出頭する法要。大法要になると、老師をサポートする侍香が必要になる。

※3
普段は作務衣姿で足袋は履かない。道場内で足袋を履く時は法要や葬儀などに限られる。

【雲水用語】
接心(せっしん):集中修行期間。外部との接触を断絶し、座禅と参禅に励む。
三應(さんのう):老師をサポートする部署。
水施餓鬼(みずせがき):成仏していない死者の霊を供養する夏の儀式。
侍香(じこう):葬儀や法要などで、老師の焼香や読経をサポートする役割。
講座(こうざ):無門関などの禅に関する授業。
持鉢(じはつ):道場で使用する食器のこと。
着襪低頭(ちゃくべつていとう):襪とは足袋の原型となった履物のこと。低頭とは頭を低くする行為、つまり謝罪のこと。
典座(てんぞ):食事をつくる部署。
東司(とうす):トイレのこと。

2018年11月17日土曜日

雲水日記11

6月3日
入門72日目。魚鱗&墓経デビュー。

 お経のテストにクリアすると、法要での維那・魚鱗・墓経、葬儀での魚鱗・鼓鈸、仏壇の精入れや精抜きなどの役に当たり、更に枕経や通夜などに出頭することになっている。
つまり、そのために覚えなければいけないことが無数にあり、ゴールが見えない。大体1年かけて覚えるらしい。
 どれも自坊に帰ってから必要なことばかりだから、1年で僧堂を卒業するのであれば、他人よりも何倍も努力しなければいけない、と言われることがよく分かる。

 さて、今日は法要での魚鱗&墓経のデビューの日だった。
魚鱗はお経毎に叩く速さが決まっているから、簡単そうに見えて難しい。墓経は開甘露門と舎利礼文、墓経用の回向を暗記していないとできない。

 緊張したけど、大きな失敗もなく、上手くいったと思う。
まだまだ覚えることがたくさんあるけど、こうやって、出来ることが増えていくことは素直に嬉しい。

【雲水用語】
維那(いのう):お経の句頭を唱えて全体を指揮したり、回向を読んだりする役割の人。
魚鱗(ぎょりん):木魚のこと。
鼓鈸(くはつ):葬儀の際の鳴らしもののことで、チン(≒お鈴)・ポン(≒太鼓)・ジャラン(≒シンバル)とよく言われる。
自坊(じぼう):自分が所属する寺のこと。
開甘露門(かいかんろもん):故人様を供養する際に唱えるお経。お盆の棚経でも唱える。
舎利礼文(しゃりらいもん):納骨の際に唱えるお経。
回向(えこう):供養するための呪文のようなもの。

2018年11月9日金曜日

雲水日記10

5月26日
 入門64日目。遂にお経のテストに合格!

 この道場の特徴は、檀家数が多いことであり、なんと約850軒もある。和尚は住職しかいないため、宅経回りや法要、葬儀などの実務を雲水が行うことになっている。
本山など他の道場では座禅や作務が中心とよく噂を聞くが、ここでは実務が学べることが魅力であり、自坊に戻った時に即戦力として活躍できることを目指してこの道場を選んだ。

 実務を行うということは、当然お寺の境内から出て檀家さんのお宅や葬儀場、火葬場に行く。そして、檀家さんや道場にその都度連絡を取る必要が出てくるため、携帯電話が必要となる。そのため、お経の試験に合格し、実務が行えると判断されれば、外出の許可が出て、携帯電話を持たせてもらえることになっている。更に月に1回の弁事がもらえる、というご褒美付き!
でも、実務以外で携帯電話を触っているところを見られたら没収らしい。。。

 入門初日にそのことを聞いため、この約2ヶ月間、睡眠時間を削って必死こいてお経を覚え、練習を続けてきた。
ちなみに試験内容は、「般若心経、消災呪、本尊略回向、大悲呪、世尊偈、白隠禅師座禅和讃、年忌正富、四弘誓願」の一連の流れの中で、お経の暗記、仏具の使い方や作法、小磬や大磬を叩く位置まで全て見られ、合計3回以内のミスであれば合格となる。

 全部で3つステージがあって、まずは旧新到をクリアし、次は3年目、最後に4年目以降をクリアすれば、正式に合格となる。徐々に厳しい目で見られるようになり、旧新到は一発、3年目は2回目で、4年目は3回目で、今日ようやく正式に合格できた。

 試験に合格して、老師からも先輩からも、ようやく一人前の雲水として認められる。戦力としてカウントされ、”ただの新到→使える新到”、へと扱いが変わる。
最初の目標がクリアでき、一歩前進した。

【雲水用語】
作務(さむ):掃除のこと
弁事(べんじ):私用で外出すること
小磬(しょうけい):仏具の一つで、チーンという音が出る小さい磬子(けいす)
大磬(だいけい):仏具の一つで、ゴーンという音が出る大きい磬子(けいす)
新到(しんとう):道場での新人のこと
旧新到(きゅうしんとう):道場での2年目のこと

2018年11月8日木曜日

雲水日記9

4月29日
入門37日目。2つ目の公案が通った。

 ようやく2つ目の公案、「静岡駅まで何分かかるか?」が通った。
静岡駅とは、人生の長さのことで、急いでもゆっくりでも変わらないとのこと。
人によって答えが違うようだが、自分の場合は、一生懸命歩いた上で”而今(にこん)です”と答えたら通った。

 公案とは、科学的な答えではなく禅的に答えなければいけない。
そして、動作と文句、音の調子が3つ揃わなければ正解にはならないから、簡単には通らない。
公案を考える際のヒントは、「今・ここ・私」であるとのこと。
「今どうしますか?」
「ここでどうしますか?」
「あなたは何をしますか?」

 次の公案は、「父母未生以前の本来の面目」
「両親が生まれる前、あなたはどんな顔をしていましたか?」という有名な公案だ。
これは夏目漱石が鎌倉・円覚寺で修行していた時に出された公案。
この公案は難しく、夏目漱石は降参しているし、何ヶ月もかかるらしい。
本格的に修行っぽくなってきた。

※補足:1つ目の考案は、「独参場にはどちらの足から入るのか?」だった。
これは雲水としてのあり方が問われている。
”叉手(しゃしゅ)のポーズをして、素早い動きで左足から入る”動きをしたら通った。
つまり、雲水としての作法である叉手のポーズをし、左進右退という僧堂の作法を守り、
歩いている時間がないくらい忙しい僧堂らしくする、ということ。

【雲水用語】
公案(こうあん):臨済宗での修行の特徴の一つ。禅の精神を究明するための問いのこと。老師から頂戴し、老師と禅問答する。
独参場(どくさんば):老師と禅問答をやり取りする部屋。
而今(にこん/じこん):過去や未来にとらわれないように、今を生きる、という禅語。
叉手(しゃしゅ):雲水の基本的な作法。左手を指先まで伸ばしたで状態で右手(同様に指先まで伸ばす)を覆い、鳩尾辺りに手を添える。叉手のポーズで歩いたり走ったりしなければいけない。しないと、怒鳴られ説教される。
左進右退(さしんうたい):僧堂での基本的な作法。右足で進み、左足で退く。

2018年10月27日土曜日

雲水日記8

4月25日
入門33日目。接心終了。入門して初の外出。

 長い1週間がようやく終わった。1週間、毎日4時起床で25時就寝、特に全体朝課・晩課、大量の飯・茶礼がかなりハードだった...。
ミスばかりだったけど、接心というのが何なのか理解できた。

 そして、また1週間後に接心が始まるという...。しっかりこの1週間で修正しなくては。1週間振りの風呂がめちゃくちゃ気持ち良かった!!

 接心が終わり、少し落ち着いたようで、以前から老師に指示されていた眼鏡の買い出しがあった。通称、眼鏡弁事。
入門前に新調した丸眼鏡が個性を強調し過ぎているから修行に向かないとのこと...。せっかく買ったのに...。

 入門後、初の外出だ!でも一人では外出出来ず、2年目の先輩と一緒だった。
境内を出た瞬間、何とも言えない解放感があり、誰からも監視されず自由であることはこんなに有り難いことなのか、と感激した。
お店までの自転車を漕ぐ時間が、ものすごく心地よくずっと漕いでいたかった。

 めったにないチャンスだったので、先輩にお願いして時間をもらい、入門後、家族と初めて電話が出来た。
毎日の大声による読経で自分の声が潰れてしまったせいで、最初は誰か分かったもらえなかった。
「俺だよ俺!」といっても全く気づいてもらえず、オレオレ詐欺かと警戒された。
お互いの近況報告が出来て、20分くらいだったと思うけど話が出来て元気がもらえた。残り11ヶ月、まだまだあるけど頑張らねば!!!


【雲水用語】
接心(せっしん):7日間の集中修行期間。一日の大半が坐禅。接心中は風呂に入れない。
弁事(べんじ):私用で外出を許されること。

2018年10月8日月曜日

雲水日記7

4月18日
入門26日目。遂に制中・接心が始まった。

 4月15日から制中(せいちゅう)に入り、今日から接心(せっしん)が始まった。
道場は制中・制間(せいかん)と期間が2種類あり、平たく言うと、制中は厳しい修行をする期間、制間は緩やかな期間。約3ヶ月周期で制中、制間を繰り返す。
また、このタイミングで寮舎異動、つまり部署異動があり、堂内(どうない)から三應(さんのう)に配属となった。三應とは、老師の付き人の部署で、常に老師の近くにいてサポートすることが役割だ。

 制中は、基本的には4時起床。そして21時就寝の後に約50分の夜座(やざ)が入り、その後の反省会という名の先輩からの説教タイムが終わるのが早くて23時。
そこからお経や法要、儀式の動きなどを覚える自主勉強の時間になるため、実際に寝られるのは24~25時。33歳の身体で睡眠時間3時間、一切休憩なしで動きっぱなしというのはかなりハード。足のマメが潰れ、足パンパンや。

 そして接心初日。
4時起床で、朝課(ちょうか)、飯台看(はんだいかん)、講座(こうざ)、晩課(ごか)、参禅(さんぜん)、茶礼(されい)と忙し過ぎてあっという間に一日が過ぎた。
全てにおいて細かな作法が決まっているため、ミス連発でめちゃくちゃ怒られた。
そして、睡眠時間3時間が続くなか、1時間の講座は眠すぎて睡魔との戦いだ。噂によると老師に寝ていることがばれるとクビとか。。。

 一番衝撃的だったのは、20時の茶礼だ。接心の茶礼は、ものすごく食べる。うどん8杯~、おにぎり10個、サンドイッチ1斤がノルマだ。
初日はうどん、2日目はおにぎり、3日目サンドイッチ、4日目うどんというローテーション。雲水は食べ物を残しちゃいけない、たまに檀家さんからご馳走になる時があるから、その時に備えて胃袋をでかくする修行のようだ。
うどん9杯食べて、案の定、腹を壊した。

 睡眠時間を削って、身体を痛めつけて、内蔵まで痛めつけて、自分を追い込むのことが禅の修行らしいけど、本当にこんなことって必要あんの?この世界おかしいんじゃないの?ってことばかり。
でも、そういうもんだ、と受け入れることから。感情のコントロールも修行の一環か。


【雲水用語】
制中(せいちゅう):厳しい修行の期間。
制間(せいかん):緩やかな期間。
堂内(どうない):禅堂で寝起きして坐禅に集中する部署。それに対して、道場全体をサポートする部署が常住(じょうじゅう)。
三應(さんのう):常住の一つで、老師のサポートをする部署。他に料理をつくる典座(てんぞ)、事務局の副随(ふずい)という部署がある。
接心(せっしん):7日間の集中修行期間。一日の大半が坐禅。接心中は風呂に入れない。
飯台看(はんだいかん):食事の給仕係のこと。
講座(こうざ):老師による勉強会。
参禅(さんぜん):老師と禅問答すること。

2018年9月4日火曜日

雲水日記6

入門20日目。道場に高橋一生がやって来た。

4月12日
今日で掛搭してちょうど20日。これをあと18回以上も繰り返すのか...。
まだまだ先は長いけど、新しいことを覚える最初の3ヶ月を乗り切れば楽になる、と先輩が口を揃えて言われるからそれを信じてあと約2ヶ月頑張ろう!

今日は晩課が終わった直後、何やら背後に気配を感じ、振り向くと10名くらいの人だかりが出来ていた。よくよく見ると高橋一生やないか!僕が好きなN●●のK族にK杯やないかい。
「突然すみません。高橋一生と申しますが、N●●のK族にK杯の取材で参りまして、お話お伺いしても宜しいでしょうか。」とすごく物腰低く丁寧な口調で言われた。
雲水は表情に出して笑うことや驚くこと、冗談を言うこと、世間話をすることはNGなので、「入門する前、直虎見てました。」「頑張って下さい。」とか伝えたかったけど我慢して、無表情で「少しお待ち下さい」とだけ伝えて、知客さんに繋いだ。
知客さんは長年道場にいる人で高橋一生のことを知らないらしく、老師も不在だったため、取材を断ってしまった。もったいないことをしたなぁ。。。
毎日辛い日が続くけど、たまにはご褒美がある。今度、家族に自慢しよう。

【雲水用語】
晩課(ばんか):15時頃から唱えるお経
知客(しか):雲水の責任者

2018年8月26日日曜日

雲水日記5

入門14日目。初めての寝ずの番。
入門してから初めて檀家さんが亡くなり、終日、緊張感に包まれていた日。

4月6日
昨日檀家さんが亡くなったと連絡が入り、お通夜と葬儀を道場で行うことになった。
方丈にご遺体が安置されたので、一晩中、ロウソクと線香の火を絶やさないように見張らなければならない。これを寝ずの番といって、新到の仕事の一つ。
方丈は堂内よりも暖かく、その日に限っては同夏だけで寝るので気が楽。

亡くなった方は若い頃から長年、道場に尽くしてこられた方のようで、父も40年前にお世話になった方のようだ。それだけに、老師の気合いの入り方が違い、雲水の先輩方も非常に気が張っていた。
今日はお通夜、明日は葬儀だけど、まだ式の流れや動きが理解できていないため、出頭することができない。

今日でちょうど2週間。
一日一日は長いが、気づけばあっという間の2週間。

【雲水用語】
寝ずの番(ねずのばん):ご遺体と同じ部屋で、一晩中、ロウソクと線香の火を絶やさないように番をすること。
方丈(ほうじょう):本堂のこと。
堂内(どうない):雲水が寝たり坐禅したりする修行するための建物。
同夏(どうげ):同じ夏(げ)に入門した同僚のこと。
夏(げ):僧堂での生活は半年が一単位となっており、これを一夏(いちげ)という。

2018年8月21日火曜日

雲水日記4

入門9日目。公案&托鉢デビュー。
いよいよ修行が始まったと実感した日。

4月1日
老師から公案を頂戴した。
最初の公案は、「独参場に入る足はどちらの足か?」という公案だ。
あくまでも禅的にどうなのかを考えなければいけない。
1回目「左足」でダメ、2回目「右足」でもダメ。
”無い足を使う”ってことか?

今日は托鉢デビュー。雨だったので合羽を着て市街地を回った。
「ほぉー」と腹の底から声を出し、お宅の前で四弘誓願というお経を唱える。
「雨の中、お疲れ様です。」「修行頑張って下さい。」「ありがとうございます。」と言葉をかけて下さったり、自分に向けて手を合わせられたりする人もいて、道場内では味わえない達成感があった。托鉢が好きになった。

※補足:臨済宗の修行は、公案が特徴的である。夏目漱石が鎌倉・円覚寺の老師から、「父母未生以前本来の面目」という公案を与えられ、禅問答したことは有名な話である。

【雲水用語】
公案(こうあん):禅の精神を究明するための問い。老師から頂戴し、老師と禅問答する。
独参場(どくさんば):老師と禅問答をやり取りする部屋。
托鉢(たくはつ):お宅に向かってお経を唱えて、金銭やお米などの施しを受けて回ること。
四弘誓願(しぐせいがん):仏教を信ずる者としての基本的な誓い。

2018年8月15日水曜日

雲水日記3

入門6日目。ようやく雲水生活が始まった日。

3月29日
ようやく入門が認められて雲水生活がスタートした。

隠寮相見があり、老師から
「数ある僧堂がある中でうちを選んで頂いたことに大変感謝申し上げます。今までの人生や経験を全て忘れてまっさらにするように。これまでのルールとは大きく違って戸惑うことが多いと思うけど、素直に謙虚になって修行に励んでもらいたい。奥さんのことを忘れるのは辛いことかもしれないけど、修行に集中して立派な僧侶になることが奥さんのためになると思って頑張ってもらいたい。」
というお言葉を頂戴した。

その後、荷物の検単があり、家族や今までの思い出写真、防寒用のスパッツ、家族に書こうと持ち込んだ手紙や辞書など、修行に関係ないものは全て没収された。写真だけは勘弁して下さい、とお願いしたけど、認めてもらえなかった。
そして、僧堂の伝統?!、新到いびりという謎の嫌がらせが一日続く。。。
坊さんがやることとは思えない!非道である!!

でも、お経のテストに合格すれば、ケータイが持てるようになる。
1ヶ月後の合格を目指して、がむしゃらに頑張る!

※補足:檀家さんがかなり多い寺であるため、宅経も多く外出する機会が多い。
そのため、檀家さんと連絡を取る必要があることから、ケータイを持つルールになっている。

【雲水用語】
・隠寮相見(いんりょうしょうけん):老師との初顔合わせの儀式で、住職の部屋に挨拶に伺うこと
・検単(けんたん):荷物の点検
・新到(しんとう):新人雲水
・宅経(たくぎょう):檀家さんのお宅に訪問して読経すること

2018年7月31日火曜日

雲水日記2

入門5日目。5日間の入門試練をクリアできた節目の日。
ようやく雲水として認められ、いよいよ修行が始まります。

3月28日
5日間の試練に耐え、ようやく入門が認められた。
そのご褒美として?5日ぶりの入浴ができた。僧堂では入浴のことを開浴と言う。
他の道場では4と9がつく日しか開浴できないのだけど、老師のご配慮によりここでは毎日開浴できる。今日の風呂はめちゃくちゃ気持ち良かった。今までで一番かもしれない。
風呂に入ることは有り難いこと。老師に感謝。

夜8時頃に知客寮相見といって、雲水の中で最も偉い人と対面する儀式があった。

雲水は知客寮のことを”知客(しか)さん”と呼ぶ。
知客寮相見は暗い部屋に案内され、その部屋の正面に知客さんが座っていて隣には行灯が置かれいて、うっすらとしか知客さんの顔を見ることができなかった。
まるで時代劇のワンシーンのようで、いつの時代だよ!と、内心突っ込んでしまった。
知客さんの顔をジロジロ見ることも、話しかけることも許されず、ただひたすら低頭をする。時代劇の演者の気分だった。
知客さんから「僧堂では今までの経験をまっさらにして、修行に励むように。」と激励の言葉を頂く。
また、”しょうぶん”という名前を与えられることになったと発表され、明日からは”文(ぶん)さん”と呼ばれることになった。

いよいよ明日からだ!


【雲水用語】
・老師(ろうし):専門道場の住職のこと。
・開浴(かいよく):入浴のこと。4と9がつく日しか開浴できない道場が多い。例えば4、9、14、19日など。
・知客寮(しかりょう):雲水の中で最も偉く意思決定権を持つ。外部からの来客の接待を行う。
・相見(しょうけん):対面すること。
・低頭(ていとう):頭を低く下げる。土下座のポーズをする。
※使用シーンによって意味が変わる用語もありますが、わかりやすさを第一に表現しています。

2018年7月24日火曜日

雲水日記1

禅宗では修行僧のことを雲水(うんすい)といいます。

実は、修行中密かに日記をつけていました。
なぜ密かなのか、それは没収される可能性があるからです。
修行道場の様子は門外不出であり、グーグル先生に聞いても教えてくれません。
映画「ファンシィダンス」のように少しでも禅に対して興味を持ったり、理解したりして頂ければと思い、日記の一部を公開したいと思います。

まずは入門編。
禅道場に入門することを掛搭(かとう)といいます。
掛搭できる期間が春か秋と決まっていて、いつでもできるわけではありません。
しかも、すぐに受け入れてもらえるわけではなく、最初に5日間の入門試験が課せられます。
最初の2日間は庭詰め(にわづめ)といって、朝から夕方くらいまで低頭(ていとう:頭を低くする、いわゆる土下座のポーズ)をし続けます。その後3日間は旦過詰め(たんがづめ)といって、6畳1間を与えられ一日中座禅をし続けます。
それが終われば、正式に修行僧として受け入れてもらえるという流れです。

3月24日
いよいよ掛搭の日がやってきた。
家族に見送られ、7時頃に入山した。
玄関にて
僕「頼みましょー!!!」と低頭のポーズで腹の底から大声を出し、入門の意思を伝える。
すると、先輩雲水が登場し
先輩「どーれー!いずこより?」とどこから来たのかと尋ねられる。
僕「(いずこって?いつの時代だよ。。。と内心思うが)●●寺徒弟(とてい:弟子)◯◯と申します。当道場に掛搭致したく、お取次をお願い致します。」
先輩「当道場はただいま満員に付き、他の道場に足元の明るいうちに御巡り下さい。」と入門を断られる。
僕「(このやりとり、事前に聞いていた通りだ。”良し”、と言われるまで頭を下げ続けねば。)」
といった具合に、7時から夕方までは食事と東司(とうす:トイレのこと)以外はずっと低頭の姿勢。
途中、これは夢なのかと何度も思った。
そして旦過詰めが終わる5日間は風呂、歯磨き、ひげ剃りが許されない。早速試練だ。今日は長い一日だった。。。

2018年6月28日木曜日

前堂職試験

先日、本山である妙心寺にて2泊3日で、前堂職法階取得研修会が開催されました。
研修会という名ですが、歴とした試験です。

筆記試験(仏教学、禅・妙心寺の歴史、禅語、人権問題など)50点、法式(仏具の取扱と作法)10点、読経10点、法話10点、研修中に提出するレポート10点、研修中の態度10点、合計100点満点中65点以上が合格となります。

住職になるまでのハードルはいくつかありますが、まずは専門道場での修行、次は前堂職試験。

何点だったか分かりませんが、本山から合格通知が届きました。
ひと安心、、、と言いたいところですが、垂示式が終わるまでは気が抜けません。

少し長くなりますが、法階、垂示式について説明します。
前堂職(ぜんどうしょく)というのは、臨済宗妙心寺派の僧侶としての法階(=階級)の一つで、全部で14階級あります。これまでは、下から数えて2番目、つまり僧侶としてはレベル2でした。前堂職はレベル5、和尚の階級で自坊(じぼう:自分が関わる寺)では副住職に就任できます。専門道場で修行すると、前堂職試験を受験する資格が得られます。今回の合格でレベル5になれるわけですが、垂示式(すいじしき)が終わって初めて和尚さんになれます。垂示式というのは、本山で開催される小僧から和尚になるための儀式で、おそらく秋頃に行うことになりそうです。垂示式が終わって、ようやくひと息つけるのではないかと。でもまだ先があり、自坊の住職になるには、レベル9の階級が必要で、1年につき最大でも1レベルUPなので、最低でもあと4年かかるということになります。

次は垂示式に向けた準備。
専門道場で修行をしていたという証明書が必要なので、来週、3ヶ月ぶりに道場に行って参ります。少し緊張します。。。

2018年6月26日火曜日

「文さんの一日一禅」始めました。

約1年半ぶりの更新になります。
掛搭(かとう:道場に入門すること)する前に更新出来ていませんでしたが、実は昨年3月から1年間修行に行っておりました。

僧堂(そうどう:専門道場のこと)では、”文(ぶん)さん”と呼ばれていましたので、ブログのタイトルを改名し、心機一転してブログを再開します。

僧堂では、必ず”◯◯さん”と呼ばれます。私の場合は本名を音読みにして、”ぶんさん”と呼ばれていました。他には例えば、”どっさん(道さん)”、”じゅっさん(樹さん、寿さんなど)”、”ゆっさん(優さん、雄さんなど)”、”じゅんさん(純さん、順さんなど)”です。

このように、禅の世界では当たり前でも、一般社会から見たら特別なことがたくさんあります。
このブログでは、一般の人に対して、分かりやすく出来れば面白く、禅のことや仏教のことを伝えられたらと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。