2018年11月25日日曜日

雲水日記13

7月3日
入門101日目。同夏が逃げ、役位がクビになった。

朝起きたら、同夏がいなくなっていた。
夜逃げしてしまったらしく、雲水全員で探し回ったけど、見つからなかった。
自坊にいると安否の確認ができたので、ひと安心しただけど、今回は役位の暴力が原因の一つ(※1)ということで、本人がクビになった。
客観的に見ても明らかに指導ではなく、ただのいじめであるから、仕方がない。
俺も張り倒されたり、階段の上から背中を押されたり、耳元で大声で叫ばれたり、作務衣からシャツが見えただけで土下座を強要させられたり、通路とかですれ違う度に”何だてめぇ殺すぞ”って威圧されたり、やりたい放題にやられてきた。年下に好き放題やられて情けなくなる。

俺だって、逃げられるもんなら逃げたいわ。辛いというよりアホらしくて。
でも最低1年道場にいないと坊さんになれないし、家族や檀家さんに迷惑かけるから今は耐えるしかないのだが。。。

気持ちを切り替えて、修行の目的は何なのか、この道場を選んだのはなぜか、もう一度初心に立ち返り、環境の変化に関係なく、やるべきことをやるだけだ。
今週は山門施餓鬼、そして来週から棚経が始まる!

※1
この道場では、即クビになる行為が3つある。1暴力、2変装(私服に着替えること)、3窃盗。見つかったら強制的に自坊に返されるルールになっている。

【雲水用語】
同夏(どうげ):同じ年に入門した同期のこと。
役位(やくい):道場の幹部のこと。長年修行している上位3人が役位に就く。
山門施餓鬼(さんもんせがき):お寺で先祖の供養を行う夏の儀式。
棚経(たなぎょう):お盆の時期に行うお経回り。地域によってお盆の時期が違う。

2018年11月20日火曜日

雲水日記12

6月21日
入門89日目。3度目の接心終了。

 長い長い3度目の接心がようやく終わった。
すっかり恒例になった魔のデカ盛り茶礼に加え、今回は、初の三應の接心当番(※1)、葬儀2座、大法要2座(※2)、更に水施餓鬼も始まり、ものすごくハードだった。
ただでさえ接心中は、4時起床、23時就寝なのに、23時から葬儀と法要での侍香の練習が入ったから、1時間半睡眠が続いた。。。
講座中に寝るとクビになるし、さすがに葬儀や法要で寝るわけにはいかないため、先輩から貰ったモカという眠気止め薬を飲んで耐えた。
効果があったのかよく分からないけど、なんとか睡魔に勝った。

 そして、初めてのことが続き、数え切れないほどのミスをした。
葬儀や法要は一般の方にはわからない程度のミスだと思うが、一番のミスは風呂を入れ忘れたことだ。めちゃくちゃ怒鳴られ、持鉢を投げつけられた。
致命的なミスをすると、着襪低頭といって、雲水衣に着替えて足袋を履いて(※3)、謝罪をすることになっている。
接心中は分刻みで予定が全て決まっているから、それを狂わせてしまうことは絶対にやってはいけないNG行為とのこと。
ちなみに、食べられないくらい不味い飯をつくっても着襪低頭をしなければいけないらしい。
何をやらかしても、着襪低頭をすれば許してもらえるんだから、と気持ちを切り替えよう。。。
Don't worry be happyだ。

 とにかく踏んだり蹴ったりの7日間だったけど、ひとまずお疲れ様でした。

※1
お経のテストに合格すると、接心当番というものが当たる。
接心中は、檀家さんであっても外部との接触は断絶され、食事と東司以外は座禅と一日4回の参禅を行う。接心当番は、集中して修行ができるようにサポートすることが役割。
主な三應の接心当番は、老師の食事づくり、参禅準備、開浴準備など。
他には典座の接心当番がある。典座は雲水への食事や茶礼をつくることが役割。

※2
道場内で使う用語。
小法要:雲水2~3名で行う法要。
中法要:雲水4~6名で行う法要。
大法要:雲水の人数は関係なく、老師が出頭する法要。大法要になると、老師をサポートする侍香が必要になる。

※3
普段は作務衣姿で足袋は履かない。道場内で足袋を履く時は法要や葬儀などに限られる。

【雲水用語】
接心(せっしん):集中修行期間。外部との接触を断絶し、座禅と参禅に励む。
三應(さんのう):老師をサポートする部署。
水施餓鬼(みずせがき):成仏していない死者の霊を供養する夏の儀式。
侍香(じこう):葬儀や法要などで、老師の焼香や読経をサポートする役割。
講座(こうざ):無門関などの禅に関する授業。
持鉢(じはつ):道場で使用する食器のこと。
着襪低頭(ちゃくべつていとう):襪とは足袋の原型となった履物のこと。低頭とは頭を低くする行為、つまり謝罪のこと。
典座(てんぞ):食事をつくる部署。
東司(とうす):トイレのこと。

2018年11月17日土曜日

雲水日記11

6月3日
入門72日目。魚鱗&墓経デビュー。

 お経のテストにクリアすると、法要での維那・魚鱗・墓経、葬儀での魚鱗・鼓鈸、仏壇の精入れや精抜きなどの役に当たり、更に枕経や通夜などに出頭することになっている。
つまり、そのために覚えなければいけないことが無数にあり、ゴールが見えない。大体1年かけて覚えるらしい。
 どれも自坊に帰ってから必要なことばかりだから、1年で僧堂を卒業するのであれば、他人よりも何倍も努力しなければいけない、と言われることがよく分かる。

 さて、今日は法要での魚鱗&墓経のデビューの日だった。
魚鱗はお経毎に叩く速さが決まっているから、簡単そうに見えて難しい。墓経は開甘露門と舎利礼文、墓経用の回向を暗記していないとできない。

 緊張したけど、大きな失敗もなく、上手くいったと思う。
まだまだ覚えることがたくさんあるけど、こうやって、出来ることが増えていくことは素直に嬉しい。

【雲水用語】
維那(いのう):お経の句頭を唱えて全体を指揮したり、回向を読んだりする役割の人。
魚鱗(ぎょりん):木魚のこと。
鼓鈸(くはつ):葬儀の際の鳴らしもののことで、チン(≒お鈴)・ポン(≒太鼓)・ジャラン(≒シンバル)とよく言われる。
自坊(じぼう):自分が所属する寺のこと。
開甘露門(かいかんろもん):故人様を供養する際に唱えるお経。お盆の棚経でも唱える。
舎利礼文(しゃりらいもん):納骨の際に唱えるお経。
回向(えこう):供養するための呪文のようなもの。

2018年11月9日金曜日

雲水日記10

5月26日
 入門64日目。遂にお経のテストに合格!

 この道場の特徴は、檀家数が多いことであり、なんと約850軒もある。和尚は住職しかいないため、宅経回りや法要、葬儀などの実務を雲水が行うことになっている。
本山など他の道場では座禅や作務が中心とよく噂を聞くが、ここでは実務が学べることが魅力であり、自坊に戻った時に即戦力として活躍できることを目指してこの道場を選んだ。

 実務を行うということは、当然お寺の境内から出て檀家さんのお宅や葬儀場、火葬場に行く。そして、檀家さんや道場にその都度連絡を取る必要が出てくるため、携帯電話が必要となる。そのため、お経の試験に合格し、実務が行えると判断されれば、外出の許可が出て、携帯電話を持たせてもらえることになっている。更に月に1回の弁事がもらえる、というご褒美付き!
でも、実務以外で携帯電話を触っているところを見られたら没収らしい。。。

 入門初日にそのことを聞いため、この約2ヶ月間、睡眠時間を削って必死こいてお経を覚え、練習を続けてきた。
ちなみに試験内容は、「般若心経、消災呪、本尊略回向、大悲呪、世尊偈、白隠禅師座禅和讃、年忌正富、四弘誓願」の一連の流れの中で、お経の暗記、仏具の使い方や作法、小磬や大磬を叩く位置まで全て見られ、合計3回以内のミスであれば合格となる。

 全部で3つステージがあって、まずは旧新到をクリアし、次は3年目、最後に4年目以降をクリアすれば、正式に合格となる。徐々に厳しい目で見られるようになり、旧新到は一発、3年目は2回目で、4年目は3回目で、今日ようやく正式に合格できた。

 試験に合格して、老師からも先輩からも、ようやく一人前の雲水として認められる。戦力としてカウントされ、”ただの新到→使える新到”、へと扱いが変わる。
最初の目標がクリアでき、一歩前進した。

【雲水用語】
作務(さむ):掃除のこと
弁事(べんじ):私用で外出すること
小磬(しょうけい):仏具の一つで、チーンという音が出る小さい磬子(けいす)
大磬(だいけい):仏具の一つで、ゴーンという音が出る大きい磬子(けいす)
新到(しんとう):道場での新人のこと
旧新到(きゅうしんとう):道場での2年目のこと

2018年11月8日木曜日

雲水日記9

4月29日
入門37日目。2つ目の公案が通った。

 ようやく2つ目の公案、「静岡駅まで何分かかるか?」が通った。
静岡駅とは、人生の長さのことで、急いでもゆっくりでも変わらないとのこと。
人によって答えが違うようだが、自分の場合は、一生懸命歩いた上で”而今(にこん)です”と答えたら通った。

 公案とは、科学的な答えではなく禅的に答えなければいけない。
そして、動作と文句、音の調子が3つ揃わなければ正解にはならないから、簡単には通らない。
公案を考える際のヒントは、「今・ここ・私」であるとのこと。
「今どうしますか?」
「ここでどうしますか?」
「あなたは何をしますか?」

 次の公案は、「父母未生以前の本来の面目」
「両親が生まれる前、あなたはどんな顔をしていましたか?」という有名な公案だ。
これは夏目漱石が鎌倉・円覚寺で修行していた時に出された公案。
この公案は難しく、夏目漱石は降参しているし、何ヶ月もかかるらしい。
本格的に修行っぽくなってきた。

※補足:1つ目の考案は、「独参場にはどちらの足から入るのか?」だった。
これは雲水としてのあり方が問われている。
”叉手(しゃしゅ)のポーズをして、素早い動きで左足から入る”動きをしたら通った。
つまり、雲水としての作法である叉手のポーズをし、左進右退という僧堂の作法を守り、
歩いている時間がないくらい忙しい僧堂らしくする、ということ。

【雲水用語】
公案(こうあん):臨済宗での修行の特徴の一つ。禅の精神を究明するための問いのこと。老師から頂戴し、老師と禅問答する。
独参場(どくさんば):老師と禅問答をやり取りする部屋。
而今(にこん/じこん):過去や未来にとらわれないように、今を生きる、という禅語。
叉手(しゃしゅ):雲水の基本的な作法。左手を指先まで伸ばしたで状態で右手(同様に指先まで伸ばす)を覆い、鳩尾辺りに手を添える。叉手のポーズで歩いたり走ったりしなければいけない。しないと、怒鳴られ説教される。
左進右退(さしんうたい):僧堂での基本的な作法。右足で進み、左足で退く。